わいせつ行為から学ぶ刑法
はじめに
刑法・民法と聞いて何を想像するだろうか?
固いイメージを持っている人が少なからずいると思われる。
本記事では、そのようなイメージを払しょくするために、刑法を意外な切り口から扱っていきたい。
本記事で扱う法律用語の定義については、『法律用語辞典』*1もしくは刑法のテキストの記載に基づくものとする。
また、本記事ではR- 18の用語を用いることがある。それらの用語をクリックしていただければ、wikipediaの該当ページに飛ぶことができるので、詳細な説明はそちらで見てiいただきたい。
強姦罪(刑法177条)・強制わいせつ罪(刑法176条)については、『刑法各論(第6版)』*2のP88~96の記述に基づいて説明を行う。
強姦罪
概要
強姦罪とは、暴行又は脅迫を手段として、相手の意思に反して女子を姦淫する行為を内容とする罪である。ただし、相手方が13歳未満であるときは、その手段を問わず、同意があっても成立する*3。
姦淫とは、性交のことであり、男性器を女性器(=膣)に挿入することで既遂に達し、妊娠及び射精の有無は問わない。
客体(行為の対象となるもの)
客体は女性に限られる。
13歳以上の女性の場合は、暴行または脅迫を手段とすることが必要である。
13歳未満の女性の場合には、手段の如何を問わず、かつ、同意があっても本罪が成立する。ロリコンの皆さんは注意するように。
手段たる暴行・脅迫
手段たる暴行・脅迫は、相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要とである*4。
実行の着手時期
判例は、強姦に至る客観的危険性が認められる時点で着手を認めている。
次の事例を見ていただきたい。
①通行中の女性をダンプカーの運転席に引きずり込む
②5km離れた場所まで移動
③姦淫
この事例*5において、最高裁は①のダンプカーに引きずり込んだ時点で強姦に至る客観的危険性を認定している。
強制わいせつ罪
概要
強制わいせつ罪とは、暴行又は脅迫を手段として、相手の意思に反してわいせつ行為を強制する行為を内容とする罪である。ただし、相手方が13歳未満であるときは、その手段を問わず、同意があっても成立する。
わいせつな行為とは、公然わいせつ罪(刑法174条)におけるわいせつ概念より広く*6、被害者の性的羞恥心を害する行為とされ
~わいせつ行為の具体例~
客体(行為の対象となるもの)
強姦罪の客体は女性のみであったが、強制わいせつ罪の客体は男女両方である。
では、性交の主体・客体が共に男性である場合、すなわち、ホモが男性を襲ってケツを掘った場合(=アナルセックスを強要した場合)は刑法上どのように処罰されるだろうか?
前述のとおり、強姦罪の客体は女性のみであり、男性は強姦罪の客体となることはできない。したがって、男性を襲ってケツを掘ったホモには強姦罪ではなく、強制わいせつ罪が成立する。
※肛門は性器ではないため、女性に対してアナルセックスを強要した場合にも、成立するのは強制わいせつ罪である。男性器を挿入する箇所によって刑期が大幅に変動するのは不自然と思われる方もいるかもしれない。しかし、次の条文をご覧いただきたい。
わいせつ行為や姦淫行為、手段たる暴行・脅迫がなされた場合、被害者側が無傷で済むとは限らない*10。刑法では死傷結果が生じた場合をより重く処罰している。
前述の例で言えば、強制わいせつ致死罪が成立するにせよ、強姦致死罪が成立するにせよ、最長で無期の懲役刑に処することができるのでさほど違いはないと思われる。
手段たる暴行・脅迫
手段たる暴行・脅迫は強姦罪同様、相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであることが通説的見解である。
強制わいせつ罪・強姦罪に関する説明は以上とする。睡眠・泥酔状態を利用した準強制わいせつ罪・準強姦罪(178条1項・2項)や2人以上の者が共同で強姦する集団強姦罪(179条)に関する説明はテキストを読んでいただくか、ご自分で調べていただきたい。
また、議論がある箇所の説明もいくつか省いているのでこちらも興味を持たれた方はテキスト・法学部の講義等で学ぶことを推奨する。
同意のある性交・わいせつ行為
刑法176条・177条のわいせつ行為・姦淫行為は客体の同意がある場合は構成要件該当性が否定される。その具体例としてAVや家庭内での性行為などが挙げられる。
AVやホモビへの出演を強要された場合や、出演拒否した場合に撮影者側から損害賠償を請求された場合に、AV・ホモビ出演契約が公序良俗違反であることを主張して対抗できるか、という問題はある。
そのような問題点があるという前提を念頭に置きつつ、本記事ではAV出演者と撮影側の出演契約において、双方の同意がある場合について扱う。
AV
AVとは、アダルトビデオの略称である。AVを撮影することが公序良俗に違反するかどうかの議論は本記事のメインテーマではないので割愛させていただく。しかし、供給があるところには何らかの需要がある。
また、AVを撮影して販売する行為についてであるが、こちらの参考記事をご覧になった上で検討していただきたい。
theworldismine999.blog.fc2.com
以上のような問題点を踏まえつつ、AV撮影契約において、性行為をする側とされる側、撮影者・プロダクション間において当事者全員が自由意思で同意・了承がある場合について扱う。
客体が13歳上の女性である場合、同意があれば性行為に及んでも強姦罪の構成要件は満たさない。したがって上記の例では、AV撮影における性行為をする男性側に強姦罪は(契約で定められた限度を超えなければ)成立しないことになる。
家庭内セックス
家庭内での夫婦間、ラブホ内での恋人同士のセックスする場合も同様に、同意がある場合は強姦罪の構成要件は満たさない。
ただし、同意がない場合はたとえ婚姻関係があったとしても、女性の自己決定権を保護する見地から、法律上の夫に強姦罪が成立し得る*11。
ホモビの場合
強制わいせつ罪の箇所で、ホモが男性を襲ってケツを掘った場合には強制わいせつ罪(刑法176条)が成立すると説明した。
こちらもAVの場合同様、ホモビに出演する当事者・撮影者の同意があれば、わいせつ行為をするホモビ男優に強制わいせつ罪は成立しないことになる。
補足
現在(ネット民の間で)最も知られているホモビといえば、「真夏の夜の淫夢」が挙げられる。この作品が有名になった経緯・もたらした影響・ポケモンとの関係は下記のリンク先から。
終わりに
ここまで読んでどう感じられただろうか。本記事を読んで刑法、ひいては法律学が汚い学問だという印象を抱いた人がいるかもしれない。しかし、犯罪を刑罰という制裁の予告によって抑止する目的*12があるため、血生臭い・汚い一面があっても仕方がないと言い得る。
刑法だけでなく法律学は、汚い・血生臭い一面だけではなく、社会の法的秩序の回復・維持・安定のためのシステムを広く扱っている。詳しい内容は大学の法学部で学んでいただきたいが、今後当ブログでも紹介していきたいと考えている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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